いつわりの夫婦の時間
2014.06.13 (Fri)
檜の湯殿で、僅かではあったけど、ほんのりと、木の香が漂います。
川面が見える窓があって、やっぱり、随分と寛げるように工夫してありました。
彼と向かい合うようにして、お湯に浸かります。
けれど、身体を見られているのが居たたまれなくて、
その視線から逃れるために、背中を見せたのですが、
同時に後ろから抱き寄せられ、脇の下から差し入れられた彼の手のひらが、
私の乳房を下から掬い上げるようにして、被さってきたんです。
お湯に、僅かばかりの波が立ちました。
彼のくちびるが、私の首筋に当てられて、舌が這い回ります。
乳房からの甘い快感と、
これからのいつわりの夫婦の時間への予感のためか、
私は、うっすらとくちびるを開いて、甘い息を吐いてました。
こうしながら、この浴室で、初めての彼を迎えることになるのかしら。
おとがいに手を添えられ、くちづけを求められました。
これまで、幾度となく、身体を寄せ合ったことのある彼でしたが、
人妻として、くちびるだけは、彼に許したこと、なかったんですよ。
「ごめんなさい」
思わず、そう言うと、私は、彼の腕から上手にすり抜け、
湯殿から、逃れていました。
かりそめとは言え、夫婦として裸の身体を寄せ合いながらも、
くちびるだけは、私の、人妻としての最後の貞操が、そうさせたんでしょうね。
彼の裸の背中に、少しだけ伸びをして浴衣を当ててました。
お湯を使った後、
そのまま、夫婦としての時間を求められるのかなぁって、
覚悟してましたが、
夕食の時間まで、温泉街を散策しようと、
彼が言ってくれたんです。
けれど、自分の浴衣を羽織ろうとしている私を後ろから抱きしめながら、
下着を着けないでって、言われたんですよ、
やだぁ、彼って、そんなこと言うんですね。
お部屋には、幾種類もの色物の化粧浴衣が用意してあってよかったです。
散歩なので色物の浴衣に薄手の丹前を借りて、温泉街を二人で歩きました。
連休ってこともあって、たくさんの観光の方がいらっしゃってるみたい。
私たち二人も、夫婦での旅行に見られていたんでしょうね。
まさか、本当のことは、わからないだろうから。
小さな滝を眺め、既に散り終えていた桜の並木も歩きました。
彼に言われたように、下着を着けないできてたんで、
ちょっと寒かったし、それ以上に、恥ずかしくて、心配しました。
下着をつけていないふくよかな乳房のため、
胸もとの重ねの乱れを、再三直しましたが、
組んでいた彼の肘が、浴衣越しに私の乳房を楽しんでるのが分かったし、
途中で寄った足湯に入るときは、
裾を上げなければいけなかったので、前に座っていたロマンスグレーの紳士に、
下着を着けてないこと、気付かれないかドキドキでした。
そんな様子を彼ったら、嬉しそうに見てたんですよ。
もう、やだぁ。
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