みどりさんの彼と5
2018.01.30 (Tue)
「順子、まだ、起きないの? ご飯できたわよ」
美味しそうな匂いに誘われるようにして、まぶたを開きました。
思いもかけない夜があけた朝、僅かに開いたレースのカーテンの隙間から、
いつもと同じような、爽やかな春先の薄い空が見えました。
椅子に座ると、たっぷりとパンに塗られた高そうなバターの匂いが、
食欲をそそります。
「昨日は、迷惑かけちゃったわね。あぁ、彼、もう、帰ったのよ」
スクランブルエッグを口に運びながら、みどりさん、そう、言いました。
「ごめんね、彼のこと」
どきって、しました。それはそうですよね。
みどりさんの恋人だった彼に、私、抱かれちゃったんだから、
みどりさんにとって大切な彼の男の人の液、私の身体の奥に注がれたんだから。
それも、寝てるみどりさんの隣の部屋で。
私、持っていたオレンジジュースの可愛らしいコップをテーブルにそっと戻すと、
顔、伏せるしかなかったんです。
「隣の部屋に順子がいるって言ったのに、どうしてもって聞いてくれなかったの。
そろそろ目を覚ますわよって、言ったのに、私の泣き声、聞こえたでしょ?」
えっ、って、思いました。
みどりさんが謝ったの、あら、私と彼とのことじゃないみたい。
彼、朝方、みどりさんの身体求めてきて、
隣の部屋に私がいることわかっていたのに、みどりさんのこと、抱いたみたいなんです。
彼、私の中に、二度も済ませていたのに、
やっぱり、本当の恋人の身体、欲しかったんでしょうね。
でも、私とのこと、みどりさん、気付いていないみたいで、ほっとしたんですよ。
こうして、親友の彼と、身体の関係を持ってしまった私、
その関係は、その夜だけでは済みませんでした。
暫くして、また、私を抱き締めながら、
「君の身体、忘れられないんだ」 そう、言ってくれた彼。
そして、そう言ってくれた、彼の逞しい身体を忘れられなくなってしまった私。
そんな関係は、彼が大学を卒業して、就職先の東京にいくまでの一年近く、
みどりさんが、帰省しているとき以外にも、
ウイークデイの夜に誘われ、彼のマンションでの関係を続けることになったのでした。
みどりさんと、隣同士で講義を受けている時、
急に、彼のこと、そして、彼のものを思い出して、身体を熱くしてしまうことがありました
ごめんなさい、そう、こころで思いながらも、
潤い始めてしまった自分の身体を感じて、そっと、目を閉じるしかなかったのです。
みどりさんと彼、大学を卒業して、数年して結婚しました。
彼は東京の一流商社のエリート社員、みどりさんは専業主婦、
二人の子どもさんにも恵まれ、幸せな家庭の様子です。
みどりさんたちとは何年かに一度と逢って、昔話してて、
(前に書いた「スカイツリーの夜」のときの、
東京の友達って、みどりさんたちのことです)
でも、やっぱり、今でも、あの頃のこと思い出して、どきどきしちゃいますね。
それに、「スカイツリーの夜」での東京の夜、
みどりさんや私の主人が席を離れた僅かな時間に、彼ったら、
「ねぇ、二人だけで逢おうよ、いいだろう、あの時みたいに」って、
隅々まで知っている私の身体、思い出すように眺めたんですよ。
ばかぁ そんなわけいかないでしょ。って、その時は、そう、思ったんですけど。
あの時と同じように、みどりさんに言えないような彼とのお付き合い、
まだ続いちゃうのかもしれないなぁって、そうも、思ったのでした。