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「幸せの行方」 その22 革靴

2019.12.26 (Thu)



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薄茶色の洒落た紐靴が、玄関の上り口に綺麗に揃えて並べてあった。
客用の車庫に車がなかったので、気づかなかったが、
来客は、誰なのか察しはついていた。

背広をリビングのソファーに掛けると、ネクタイを緩める。
院長職は、一見気楽そうに見えるが、
診察の他に、経営に関わる会議も多く、何かと気苦労が多い。

ソファーに座るとテーブルにあったリモコンで、テレビをつけてみた。
丁度、知人の二人が、医療功労賞を受けることが報じられていて、
祝賀会はいつだろうと、日程が案じられた。

ビールでもと思って、腰をあげようとしたとき、
二階から、桐子が下りてきた。
髪が乱れ、素肌に羽織ったのだろうか、白い胸元が見えた。

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そのカーディガンのボタンを閉めながら、
慌てた様子だったところを見ると、
予想した来客に、抱かれていた途中だったのは、間違いないと思えた。
ダイニングのテーブルの上には、
高級そうなワインと、寿司の食べ残しがまだ残っていて、
まだ、食事は終わっていなかったらしい。
それとも、食べること以上に、抱き合うことを待ちきれなくて、
どちらかが、誘ったのかもしれない。

「ごめんなさい、帰ってらしたんですね」

桐子は髪を撫でつけながら謝ったが、
その口紅は、すっかりと取れているのが分かった。

「きてるのか」
「今夜は遅いって、あなたが、おっしゃったから」

何時から、そんな風に、あいつのことをかばう様になったのだろうか、
きっと、逢いたいと連絡したのは、彼からだったと思えるのだが。
そう言った桐子の身体は、
二階のベッドにいるだろう恋人の胸に早く帰りたい様子が感じられた。

「いいよ、外で済ませてくるから」

そう言うと、車の鍵を手に取って立ち上がった。
玄関先まで、見送りには来てくれた桐子だったが、
ドアが閉まった後、急ぐ足跡が聞いてとれた。
息を弾ませながら、
身に着けているものを脱ぎながら二階に向かったのかもしれない。

車の鍵を挿し込むと、エンジンを掛ける。
行先はいくらでもあった。
けれど、自分たちの寝室で、恋人に抱かれる妻を残し、
夫である自分が、出かけて行くことに、
滑稽な自分を感じてしまうのは、当然だとも思えた。

桐子は、相変わらずの美貌と、見事な張りをもった身体であったが、
すでに、子どものことを心配する必要はなかった。
恋人は、心置きなく、そんな桐子の身体を楽しみ、
そして、当然のように、安心して男のものを注ぎこむことが察せられた。

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仕方のないことでもあったのだ、
彼が幾度も拒んだことを、二度も強要したのだから。
男としての役目を終えた後も、
桐子の身体を忘れられなくなってしまった彼を、
今更、邪険にするわけにはいかなかったのだ。

いくらかの人の幸せのために、
ひとりの人間の人生が大きくかわることはいたしかたないことだと、
その時は、そう、納得をしたつもりだったし、
その時は、そう、説得ををしたつもりだった、
けれど、そう考えていた幸せの行方は、
実は、思っていたようなものでは、なかったのかもしれない。


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