O先生との夜2
2018.07.30 (Mon)
お店の奥の窓際の席に、先生、あらっ、ご友人かしら?
お相撲さんのように、太って恰幅の良い、先生より随分と年上に思える男性の方。
簡単に会釈して、M先生の隣の席に座ると、
「去年から、僕の講義を受講している学生なんです」
って、始めは、そう、紹介していただいたんですけど、
「昼間は、清楚で優秀な学生だけど、
夜は、僕の言いなりの従順な愛人なんですよ」
私、驚いて、俯いたんですよ。
きっと、その慌て方で、先生の言われたこと、嘘ではないってこと、
O先生にもわかったと思います。
「まぁ、あなたみたいな、上品なお嬢さんがね。
まぁ、悪い冗談はそのくらいにして、さあ、食事にしましょう」
そう言うと、O先生、分厚い舌で、くちびるを舐めまわしたのでした。
コース料理が始まりましたが、私、あまり食欲はありませんでした。
どうして、あんなこと、先生、言ったのかしら。
二人のこと、皆には知られないようにって、いつもご自分が言われてるのに。
ご一緒した方は、M先生が大学時代からお世話になっている教授で、
今も、いろいろと、お付き合いがあるとのことでした。
「この間の君の論文、読ませてもらったよ。白馬節会とは、目の付け所が良かったね」
「ありがとうございます。年中行事や有職故実は昔から好きで、
何気なく読んでいてテーマにまで持っていったんですけどね」
「そちらの学部長に、良く言っとくよ。あと、何本か面白いのが書ければ、
もし、その若さで教授になったとしても、いろいろ言う奴はいないだろうからね」
「先生にそう言っていただくと心強い、宜しくおねがいします」
文学部の学生の私にとって、
お話の途中での先生方のお話は、ひどく興味深いものだったし、
ビールから始まったお酒も、ワイン、そして、日本酒と続き、
お二人とも、随分と今夜を楽しんでおられるように思えました。
コースが終わる頃、
「イスタンブールに行った友人から、面白いものもらったよ」
そう言うと、O先生、茶色の皮のバッグから、細いスッテックを取り出されると、
口を開き、ふいに私の目の前に置かれたワイングラスに注ぎ込んだんです。
「さぁ、口直しに飲んでみてごらん。いや、なに、危ないものじゃないから」
きっと困った顔、私返したんだと思いますが、
言われるがまま、その白い粉が溶け込んでしまったワイン、飲み干してしまうと、
O先生の、満足そうな濡れたくちびる少しだけ緩んだのが見えたんです。
O先生、ナプキンを使いテーブルに置くと、M先生に声掛けられました。
「いつも、悪いね」
「いえ、お部屋で待っていらしてください」
もう一度、私の身体、舐めるようにご覧になったO先生、
ゆっくりと、席を立たれたんです。
「わかるね、大事な先生なんだ」
「どうすれば、いいんですか」
「先生の部屋に行けばわかるさ」
「えっ!」
けれど、その返事の応えは聞けないままに、M先生、そっと、立たれたんです。
随分と混乱していました。
O先生のお部屋の番号、教えていただいていましたが、
そのドアを開いたら、どうなってしまうのか、
思いもしなかった夜が、始まってしまうこと、間違いないように思えたのでした。
けれど、さっき、飲まされた白い粉のせいだったんでしょうか、
身体の芯から、恥ずかしい感情が、ゆっくりと湧き上がってきたようにも思えたのです。
M先生に言われたままに私、
O先生のお部屋のドア、ノックしてしまっていました。
それが、M先生が望まれていることであるのなら、
もう、仕方がないと、そう、思うしかなかったのです。
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