ひろしとのこと3 誘い
2019.01.28 (Mon)
贈り物で頂いた車海老の背ワタを、爪楊枝で抜き取りながら、
夕食の準備をしていましたが、
なぜだか、急に手を止め、虚ろな眼差し、キッチンのブラインドに向けました。
竪町のバーでの出来事以来、そんな時間が増えたようにも思えていました。
彼から飲まされた、カクテルの酔いに、
そして、強引な彼に任せて、
夫ではない男の人と、くちびる、重ねあってしまったのです。
そんな、人妻として、あってはならないこと、
初めてではなかったけど、
今度のことは、私にとって、これまで以上に、こころと身体に刻まれたことだったのでしょうか。
洗って濡れた指先が、くちびるにそっと触れると、
あの時の、彼とのくちづけの味を、思い出そうとしたのでしょうか。
だらだらと唾液をしたたらせながら、お互いの舌を絡ませ合いながら、
恥ずかしい声、漏らし続けてしまったあの時のことを。
そんなくちづけの味を、思い出すまでもなく、
彼のことがこころに浮かぶと同時に、身体は正直に、燃え上がろうとしていたんです。
なぜだか、分かりませんでした。
確かに、彼は、一回りほど年下の、若くて魅力のある、
心惹かれる青年であることは、間違いはありませんでしたが、
人妻あるが私が、これほど身を焦がしてしまう人ではないようにも思えたのに。
夕食の準備の途中だったのに、ふらふらと、寝室のある二階へ向かいました。
そして、階段を登りながら、おびただしい蜜液が、
明らかに下着を濡らしてしまっていることに、私、気が付きました。
それは、あの時、求められながらも、かろうじて拒んだ、
彼を迎え入れるための、しるしのようにも思えたのです。
この燃え上がるような身体の疼きを、
今は、自分の指を使って、治めるしかないと思え、
胸元に手の平を添えると、小さな息、ひとつ漏らしたのでした。
「えっ、何か言ったの」
「このエビフライ、美味しいねって言ったんだよ」
そう言った夫の、脂ぎったくちびるを見つめながら、
その瞬間、こころは、目も前の夫ではない、違う男の人のくちびる、
重ね合い、啜り合った、彼のあのくちびるを思っていたのでしょうね。
時間が解決してくれるだろうとも、思っていました。
あの夜のことは、思いもかけない時間だったけど、
暫くすれば、きっと、忘れられるわ、と。
けれど、彼は、許してはくれなかったのです。
竪町での恥ずかしい夜から、二週間ほどしたお昼時、
彼からの、待っていてはならない、その誘いの連絡があったのでした。
私のことを想うと、仕事が手につかないって、
ご主人のことがあるだろうから、平日のお昼に、逢いたいって。
「私もあの時のこと・・・」
夫のある人妻として、言ってはならないこと、そう、彼に告白してしまいそうになり、
電話口で、ひどく取り乱してしまった自分のこと、今も覚えているんです。