地中海での思い出5 チークタイム
2016.11.30 (Wed)
ワルツの曲に比べれば、当然のように、
密着した身体の重なりと手の位置が許されるチークダンスの曲でしたが、
それまで、腰に回されていただんな様の手のひら、
うっすらと落とされたホールの淡い光と、
周りで踊る、背の高い外人さんたちの姿に助けられるようにして、
私の、薄いドレスの胸元に、這い上がってきたのです。
広く開いた胸もとのために、ワイヤーレスの薄いブラだったのが、
だんな様には、好都合だったのでしょうね。
下から、揉み上げるように這い上がってきた手のひら、
存分に、私の右の乳房の柔らかさを楽しむと、
その手のひらの動きに、嬉々として応えるようにして、
乳首、きゅんって、硬くとがったのが、分かったのでした。
身体に湧きだした、桃色の広がりに、身体、思わず、くねらせましたが、
そんな私のこと、助けてくれるはずの主人、
あらっ、どこにいっちゃったんだろう、
さっき、奥様といたテーブル、誰も、座ってなかったんですよ。
素敵なチークダンスの曲にのって、
二人の身体、重なり合うようにして、揺れ続けていましたが、
周りの皆さんも、当たり前のように、仲良くされていたんです。
お互いの両手が、相手の腰に回され、
擦り付けるようにして、腰が揺れてて、
私、思い出してはいけない、
だんな様の、あの夜と同じ、懐かしい良い匂いのする広い胸に、
そっと、頬、預けるしかなかったのでした。
「今夜も、いいだろう。この間みたいに」
そう、響いた低い声。
でも、今夜は、主人との、本当の夫婦の時間を過ごしたかった気持ちが、
勝っていたのでしょうね。
「ごめんなさい」
そう言って、だんな様の、名残惜しそうな両手から、上手にすり抜けたのでした。
お部屋に戻って、パパ、いるのかしら。
まさか、奥様と、一緒じゃないのかしら。
入り乱れる気持ちのまま、酔いを醒ますため、甲板に続くドアを開いたんです。
船内には、素敵な喫煙室があるらしいんですが、ここで過ごされるお客様もいるみたい。
夜の海原の、黒とうとうたる闇が続いていました。
さっきまで、だんな様の手のひらが、いいように這い回っていた胸元のしわを、
他の人に気づかれないように、そっと、直しましたが、
その時の、手のひらの温かさを忘れるように、ひとつ、小さな息を吐いたのです。