大賀さんとの出会い2
2021.09.13 (Mon)
「誰に、会うの?」
「えぇ、パパのお友達よ、税理士さんで、京都で事務所開かれてるの」
「へぇ、それで、いい帯していくのね」
「パパに恥かかせるわけ、いかないから」
叔母さんに、そう言いながら、帯をぽんっ叩くと、着付けが終わりました。
前にも書いたように、
着物は小さい頃から、所作や着付けなど、厳しく躾けられていて、
お洋服と同じように、気軽に過ごせるんです。
今日は、蒸し暑くなりそうなので、単衣ですが、
初めての着物姿、大賀さんに見てもらうこともあって、
比較的、高価なものを選びましたよ。
大賀さんと、そして、私にとっても、珍しくない嵐山に行くことになっていましたが、
前に比べると、外国の観光の方も、随分と少なくなって、
のんびり楽しめるだろうって、そう言われていました。
京都駅で待ち合わせをしましたよ。
少し早く行ったから、暫く待つことになりましたが、
嫌ではなかったですよ。
その時間は、これから逢う、大賀さんのことで、
こころを染める時に、外ならなかったからでしょうね。
でも、着物姿の私、少し、目立ったのでしょうか、
沢山の男の人の視線、随分と、感じていました。
「すいません、待たせちゃいましたね」
「いえっ、私も、今、来たばかりなんですよ」
「わぁ、着物なんだ、いつも以上に、綺麗で、惚れ直しちゃいますね」
「まぁ、お上手ね」
大賀さんは、趣味の良い、ジャケットを着ていて、
何かしら、良い匂いがしました。
烏丸口からタクシーに乗って、渡月橋の端で降りました。
コロナウイルスのことで、京都に来た時も、
無用な外出はしなかったので、こちら辺りも、久し振りだったですね。
ゆっくりと、本当にゆっくりとした大賀さんの隣を、
それに、合わせるように、私も、ゆっくりと歩きました。
もしかしたら、着物の私に、気を使っていてくれたのかもしれませんね。
八つ橋のお土産屋さんや、湯葉料理のお店などを、
両側に見ながら、並んで歩きましたが、
同じような年ごろの二人、
傍から見たら、仲の良い夫婦に見えたかもしれません。
お互い、この街のことは、よく知っているから、
何かしら、案内するようなことはありませんでしたが、
こうして、肌の温かささえ感じるほど近くに、長い時間一緒にいると、
もう、それだけで、気持ちが伝わり合うような気にもなりました。
そう感じながら、大賀さんの足先に誘われるがまま、
暫く歩き左に曲がると、野宮神社の前に出ました。
「源氏物語」にも出てくる神社なのは、皆さんも、ご存じですよね。
文学部の私も、大学時代、何度か、訪れたことがありました。
それに、ここは、縁結びや良縁祈願の神様としても有名で、
今日も、若い女性の皆さんが、来られていましたよ。
ご縁は大切なことですけど、
今、隣にいる大賀さんとのご縁はどうなるのでしょうか、
皆さんが、呆れているだろう、私と、夫ではない男の人とのふしだらな関係、
大賀さんと、そうなってしまわないようにって、お参りをしたんですけど、
「何を、お祈りしたんですか」
「えっ、ええ、いろいろと。大賀さんは?」
「僕は、順子さんとのご縁が、結ばれますようにって、お願いしましたよ」
「まぁ」
私とのご縁を結ぶって、
それって、身体の関係を結びあうっていうことなんでしょうか。
今、隣にいる大賀さんに抱きしめられ、
彼の男の人のもので、私の身体と、
これ以上はない、縁を結び合うっていうことなんでしょうか。
ご縁が結ばれること、それは、素敵なことですけど、
男と女として、身体の関係が結ばれてしまうのは、困るわって、
こころの中で、そっと、思ったのでした。
竹林の道も、私が、学生に来た時と同じように、
今は、驚くほど、人が少なくて、ゆっくりできました。
植物に囲まれるって、本当に、こころが休まりますよね。
着物で来て良かったと思える場所でした。
こうして、大賀さんと半日を過ごしました。
驚くような高級な料亭で、食事ご一緒させてもらいましたよ。
まだ、何度もお逢いしたわけではありませんでしたが、
その時間が、とても、幸せな時間なこと、感じていたんです。
けれど、この日のことが、
これから始まる、私と大賀さんとの、人には言えない時間の幕開けだとは、
その時、私、気が付かないでいたのでした。