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演奏会の夜3

2014.01.21 (Tue)


間違いなくワインの酔いではないものから、
熱く霞がかかったような意識に誘われていました。
お互いが交換した唾液のため、
しとどに濡れた唇を、やっと彼が解放してくれると、
私はうっすらと開いたその隙間から、
熱い掠れたような喘ぎ声を漏らしたのです。

全身から力が抜けるような気がして、
彼にもたれ掛るしか仕方ありませんでした。
彼は、そんな私を抱きしめると、
耳元に唇と寄せ、熱い息の中で呟いたのです。
「待っていたんだ、この時間を」

今、改めて、お互いの唾液を啜りながら、
そして、お互いの理性を溶かし合っていったのです。
もう随分と昔の恋人なのに、
彼の匂いも、唇の形も、背中の広さも、
永い時間を超えて、瞬時に私に思い出させたのでした。
「私がいけなかったの、あなたのこと待てなかったから」

私の身体から、身に着けるものすべてが、脱がされ、
懐かしい彼のものが、
少しずつ、身体の奥にまで入り込んでくる間、
私たちは何も言わないのに、お互いの目から視線を逸らしませんでした。
今、身体を繋げている相手が誰なのかを、
しっかりと、わかっていたかったのだと思います。

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申し訳のないことをした気持ちが、私にはあったのでしょうね、
彼が私に望むことを、拒むことなくすべて受け入れました。
後ろから身体を合わせ、
彼のなすがままに両胸を揉まれ続けながら愛されました。

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誘われるがままに彼の逞しい腰に跨って、
下から強く突かれ続けながら愛されました。

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そして、最後にはとうとう、彼の名前を叫びながら、
彼のおびただしい量の温かい精液を、
躊躇することなく身体の一番奥に、そのまま迎え入れたのです。
大丈夫な日ではなかったというのに。

後悔はありませんでした。
そして、主人が画策したことだからと、言い訳はしません。
大好きだった彼への僅かな償いが、今夜できたと思えたのです。
引き止める彼の腕からやっと抜け出すと、
私は裸のまま、窓際に佇みました。
さっき、食事をしていたときと同じ、見事な街の灯りが見えましたが、
今しがた、彼が私の奥に注いだ温かな男の人のしるしが、
秘唇から、僅かに滴り伝い始めてもいました。
後戻りのできない夜だったことは間違いありません。
人妻として、取り返しのできない時間だったことも間違いありません。
けれど、それは彼のせいではありませんでした。
償いをしなければならなかったと思っていた、私の過ちだったと思えたのです。
そう、今夜の自分を、納得させるしかなかったのです。

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エレベーターのドアが開くと、
ホテルの一階にあるロビーの眩い明るさが私を迎えました。
誘われた部屋での、彼との逢瀬は、
ロビーに降りるまでの、ほんの僅かな時間に、
私が垣間見た夢だったのでしょう。

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「ごめんなさい。今夜、あなたに抱かれるわけにいかないわ」
部屋で待っているだろう彼への電話での沈黙が、私のこころを痛めました。
「別の夜に、きっと、順子のことを」
そんな返事に、私はひとりで髪を揺らして、そっと、目を閉じたのです。

タクシーのドアがゆっくりと閉まると、
私にとって、思いがけない時間になった夜が、
やっと、少しずつ幕を下ろし始めたのでした。


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