雪まつりの夜3
2017.09.02 (Sat)
「幸せそうでよかったわね。子どもさんたちも、もう、随分と大きくなったでしょ」
「うん、順子さんに、いろいろ教えてもらったからね」
「えっ! 何よ、いろいろって」
「だって、順子さんが、初めての女の人だったから」
「もう、駄目よ、忘れるのよ。昔のことは」
「忘れられないよ、順子さんのこと。
あの子を抱きながら、順子さんだったら良いなぁって、
いつも、思ってるんだ」
「駄目よ、知らないわよ、そんなこと言って」
「今夜、お部屋に行って、いいよね、一人部屋なんでしょ」
「馬鹿ぁ、そんなことしたら、私、困るんだから」
「大丈夫だよ、あの子、お酒、弱くて、すぐに寝ちゃうし」
「もう、冗談はそのくらいにして」
「だって、順子さんの身体思い出したら、ほら、堪らなくなっちゃったよ」
そう言って、薄い浴衣越しの私のお尻に、
明らかに固くなった熱い男の人のもの、ぐりっぐりっって、
押し当ててきたのでした。
「部屋の鍵、開けておてね」
そう言うと、やっと身体を放してくれたよし君の後ろ姿、
甘い息吐きながら、見送ったのでした。
二日目は小樽訪れ、その日の夜は、札幌に戻って、夜の雪まつりを楽しみましたが、
北国のお料理を含めて、とても、楽しめ北海道最後の夜だったんです。
けれど、その夜、思いもかけなかった、そんなよし君からの誘い、
彼にとって、初めての女性として、
そして、人妻でありながら、彼の若さに自分を失っていた、そんな昔のこと、
やっぱり、私の身体が、今も忘れられなかったのでしょうね。
皆さんには、お話しできないような、自分のこころの揺れに苛まれた、
そんな、夜だったんですよ。
旅行から帰ってきて、
トラベルバックから、お洋服をクローゼットのハンガーに掛けました。
最後に、ピアスを外して、イアリングボックスに戻すときに、
はっと、しました。
今、自分の指の先にあるピアス、
数日前に、同じボックスから出して、
旅行中に使っていた、見覚えのない、あのピアスではなかったのです。
旅行の最初から、三日間、自分の耳元にあったピアスとは、まったく別の、
昔から、私が良く使っている、大好きなそれだったんですよ。
じゃぁ、あのピアスは?
でも、そのことは、知らなくてもいいことのように感じて、
私、そっと、瞼を伏せると、
今は、もう、思い出せない、あの、匂いを思いながら、
イヤリングボックスの蓋、ゆっくりと、閉じたのでした。
| HOME |