筆おろしの夜8
2014.04.16 (Wed)
次の日の午前中、新潟に帰る二人を駅まで見送りに行きました。
すっかり、打ち解けている様子の先生と葵さん二人は、
私たちのことが眼中にないようにして、身体を寄せ合い何かしらお話をしてます。
やだ、もう、他人じゃないのかしら。
研一君の「筆おろし」をしてあげられなかった私は、
数時間の列車移動の間にと、二人のために金沢牛のお弁当を買ってあげました。
「また、お会い出来たらいいわね」
そう言いながら、お弁当や缶ビールを手渡すと、
「順子さんのこと絶対に忘れません。今度会った時には、きっと…」
と、恥ずかしそうに研一君、言葉を濁しました。
今度会った時にはきっと… 私、こんどこそ、彼にとって初めての女性になるのかしら。
もしかしたら、本当にそうなるのかなぁって、思いながら、
グリーン車の窓から手を振っている二人を、笑顔で見送ったんです。
ところで、前の夜の先生と、葵さんのこと。
成り行きで、先生に抱かれることになるのかなぁって、
それも悪くはないわねって、ホテルのロビーまで行った葵さん。
幸か不幸か、その時になって、ご主人から急ぎの電話があって、
そのままひとりで帰宅したとのことでした。
ただ、それって、私にはわからない、
お二人にしかわからない、ひ・み・つ なんですよね。ふふ。
数日した午後、
今度は、新潟で私たち二人に会いたいと、先生からの連絡があったって、
嬉しそうな声の葵さんから、電話がありました。
思いがけないあの夜の続きは、
「筆おろし」の宿題を残したままの私に、再び訪れたんです。
ごめんなさい。そのお話は、また、今度ね。
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