山城温泉6
2018.10.17 (Wed)
朝方になって、彼を起こさないように、そっと、床を抜け出すと、
浴衣も着けないまま、テラスの露天風呂に身を浸しましたが、
水音に気づいたんでしょうね、暫くすると、
彼が、笑顔を浮かべながら、湯船に入ってきたのです。
身体の隅々まで知られてはいましたが、
やっぱり恥ずかしくて、背中を向けましたが、後ろからそっと抱き寄せられ、
両の乳房に彼の手のひらが被さってきました。
温かなお湯に浸りながら、身体の中に、淡い桃色の快感が蘇ってきて、
小さな息を吐くと同時に、薄っすらと開いたくちびるに、彼のくちびる、重ねられてきたのです。
いくらの抗いもなく、その舌先を迎えていました。
むしろ、私の方がいくらか息を荒げ、求めていたのかもしれません。
お互いの舌を絡め合い、温かなお湯の中で、今は、彼のものである乳房を好きに揉まれ、
そんな時間を、私の方から、求めていたのかもしれません。
それは、もう、身体を繋げ合い、彼のしるしを幾度も注がれたのだから、
仕方のないことだったのかもしれなかったし、
その時は、私の身体も、そして、こころも、はっきりと、彼のものだったのかもしれませんね。
この日に帰れると思っていましたが、明日まで、二泊で予約してあることを知らされましが、
そのことは、嫌じゃなかったし、彼がそう決めているのなら、仕方がないとも思えました。
お部屋で、朝ご飯を済ませると、
頼んであったタクシーで、山城温泉郷を観光に連れて行ってくれましたよ。
魯山人先生ゆかりの展示館や、九谷焼の窯元など、何度か来たことがあったところもあったけど、
この時は、やっぱり、特別な時間でした。
お昼は、腰の強い、真っ白なお蕎麦をいただきました。
運転の心配がないからって、Nさん、お酒を飲まれ、私も、ご相伴させられましたが、
久し振りの日本酒、美味しかったですね。
午後過ぎに宿に戻ると、Nさん、暫くお昼寝するって、自分のお部屋に、
私も部屋に戻ると、一人でお風呂、頂きました。
そこは、今朝、Nさんに抱き寄せられながら、くちびるを重ね合ったところだったけど、
今は、山城温泉街を眺めながら、ひとりで、ゆっくりとお湯を使いました。
どうして、私はここにいるのでしょうか。
夫ではない男の人と、その大切な夫のいる街から、こんなにも遠いこの場所で、
なぜ、こうして、お湯に浸っているのでしょうか。
けれど、湯殿から上がって、鏡の前で綺麗にお化粧をし直すのは、
今ここにいない夫のためではなく、紛れもなくNさんのために他ならなかったんです。
暫くして、床の間にある、インターフォンの淡い緑色のランプが光ると、
それは、昨日と同じような時間が流れ始めるサインだと、
私、諦めたように、そっと、目を閉じたのでした。
| HOME |