城崎旅行9
2018.07.02 (Mon)
お部屋の中には、ただならぬ匂いが漂っているような気がしましたが、
けれど、そのこと、私以上に感じたのは、きっと、Nさんだとも思えました。
パパが使っているのだろう、シャワーの音が聞こえていましたが、
声を掛けること、許されないままに、私は手を引かれて、部屋の外に出て行ったのです。
「ご主人も、許してくれるはずさ」
私たちの部屋だったはずのドアを後ろ手に閉じるなり、
慌てるような彼に抱き寄せられると、荒い息の中で、当たり前のように、
くちびる、求められました。
逞しい胸に両手を当てて、抗おうとしましたが、
息の詰まるほど、乱暴とも言えるほどに抱き締められ、
仰け反ったところを見計らった彼の分厚い舌先が、私のくちびるを押し開き、
逃げ惑う舌を吸いたててきたのです。
言葉はありませんでした。
それは、あの時の彼とは思えないほど、息を弾ませていました。
地中海旅行の説明会の日、初めてお会いしたというのに、
人の目も心配されるエレベーターホールの陰で、唇を奪われました。
そして、心配していた地中海の船の、清潔なベッドシーツの上では、
抗い逃げ惑う私の身体と、自慢の男のものでしっかりと繋がり合うことを果たすと、
数え切れないほど、悦びに突き上げた私の身体とこころ、
悠々と、自分のものにして、ほくそ笑んだのでした。
それからも、夫ではない、その夫から許された営みだったとは言え、
幾度となく身体を繋ぎ合う度に、その魅力に惑わされ、
そして、とうとう、その男の人の液、何度も注ぎ入れられること、
むしろ、自分の方から狂おしく求めるように、させられてしまっていたのです。
けれど、今夜の彼は、その時の彼とは思えませんでした。
夫ではない、彼の男の人の液の全てを、身体の奥に求めることさえ願った彼の魅力は、
その時、全く感じることができなかったのです。
ブラウスのボタンを上手に外し、ブラと素肌の間から差し込まれた、
Nさんの広い手の平が、たわわな乳房を被い、
乳首がゆっくりと硬くなりだしたったその時、部屋の鍵が開く小さな音がしました。
「Nさん、申し訳ないけど、今はそのくらいでいいでしょ、後は、食事の後で」
昨日の蟹料理と違って、但馬牛をメインとしたお肉の夕食が済むと、
私たちの部屋で二次会をと、夫がNさんたちご夫婦を誘いました。
女将さんと次男坊の彼が、お酒やおつまみを持って来てくれましたが、
「あぁ、女将さん、この部屋に布団二人分敷いてもらえるかなぁ」
「遅くまで飲まれるんですね。えぇ、かまいませんよ、すぐに準備させますね」
もともと、四、五人程度のお客様も泊まれるお部屋の広さ、
八畳くらいの床の間と縁側の付いた和室と、これから二次会に使うするソファーリビング、
それとは別に、ツインのベッドルームもあるので、ゆっくりなんですけど、
やっぱり、ちょっと、慌てたんです。
夫以外の男の人に身体を開いて、夫に言われるがまま、
そして、自分の身体の求めるがまま、
人妻としてあってはならない時間を過ごしたこと、少なくはありません。
夫に申し訳ない気持ち、強く感じながらも、
私を抱いたこと、相手の男の人に後悔してもらいたくないし、
私の身体、悦んでもらうこと、女としての努めだと思っています。
けれど、他の男の人と繋がり合い、仕方のない悦びの声を聞かせてしまうことは、
やっぱり、大好きな夫の前では妻として、
いたたまれない気持ちが強いし、夫も辛いだろうと、
今まで、避けてきたつもりだったのです。
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