暗がり坂の夜2
2018.12.03 (Mon)
さっきのお店の二階なのかしら、
木製の障子戸の向こうからは、幸いな淡い月明かりが射し込んでいるようにも感じていました。
「さぁ、貞操な人妻から、恥ずかしい、ふしだらな女になるのよ」
階段を抱きあげるように運んで、
酔っておぼつかない私の身体、布団の上に寝かせてくれた女将さんから、
きつく耳たぶを噛まれながら、そんなこと、熱い息の中で囁かれたような気がしました。
そして、女将さんの身体が離れた後の暗がりの向こう側には、
何も身に着けない、彼の裸体が浮かび上がっていたのです。
「いけないわ」
そう、言いかけた時には、なぜだか、何も身に着けていない太ももの間に、
彼の熱い腰を感じると、
迎え入れるには潤いが足りないと思えた秘唇に、
彼の驚くほど太い男の人のもの、きしむようにして、押し入れられてきたんです。
けれど、自分の肉壺の、一番奥に届いたことを正直に告げるように、白い身体を仰け反らせた私、
短くも鋭い悦びが全身を走り抜け、自分ではどうしようもない麻痺が、たわわな乳房を揺らしました。
「欲しいんだろ、僕の精液」
薄墨色の湿った空気の中から、そんな彼の曇った声が聞こえたような気がして、
驚いたように大きく左右に髪を揺らしたのに、
それまで以上に、二度、三度と強く、深く、奥にまで押し入れられ、
膨れ上がり脈を打ち出した男の人のものに応えるように、
私の肉壁、彼のもの、正直に締め付けだしていたのです。
身体の中が、暖かくなるのを感じるのと同時に、声にならない叫び声を上げたような気がしました。
そして、同時に、目の前が真っ白になるような悦びの中に、引きずり込まれていったのです。
「順子、大丈夫? もう、帰るわよ」
部屋に入ってきた南さんから、そう、声を掛けられました。
いつの間にか、お店の二階にある和室の布団の上に寝かされていたんです。
私、慌てて、胸元に手を当てました。
やだぁ、下着姿だわ。
えっ、じゃぁ、今の恥ずかしい出来事、夢ってこと。
あぁ、良かった。
今夜、初めて会ったっ逢った年下の男の人に、あんなに情熱的に抱かれて、
そして、彼の精液、注がれてしまうなんて、主人に話したら、ひどく叱られちゃう。
「洋服がしわになるといけないから、ハンガーに掛けておいたわよ。
それにしても、順子、お酒、弱かったのね。あのくらいで、酔っちゃうだなんて」
笑顔で送ってくれた女将さんにお礼をいいながら、お店をでました。
あぁ、結構、遅い時間、パパ、心配してるかも。
「彼、先に帰っちゃったけど、今度は二人だけで逢いたいって言ってたわよ。
電話番号教えてたから、よろしくね」
南さん、そう言うと、意味ありげな微笑みを見せたのでした。
主人は先に休んでいたので、シャワーを使いました。
白い身体を伝い流れる温かなお湯に身を任せながら、
でも、なんだか、いつになく全身に広がる、けだるさを感じてもいたのです。
思い過ごしかもしれません、いえ、きっと、そうだと思えるんですけど、
それは、夫に、そして、夫ではない男の人に抱かれた後の、あの時のけだるさに似たものでした。
まさか! そう思うと、思わず、ゆっくりと秘唇の溝に指先を当て、
そっと、少しだけ、その先を滑り込ませてみました。
もしかしたら、酔いの中で、彼に抱かれ、夫ではない男の人の印、
身体の奥に出されてしまっていたのかもしれないとも、思われたんです。
けれど、幸か不幸か、伝い流れる温かなお湯が、
しっかりとしたその答え、教えてはくれなかったのでした。
それから、暫くして、二人だけで逢いたいって、彼から電話がありました。
その時のこと、主人が許してくれたら、いつか書いてみたいと思っています。
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