地中海での思い出9 マルセイユ
2016.12.09 (Fri)
丘の上にある、ノートル ダム ド ラ ガルド寺院の塔が、
窓の遥か先ではありましたが、涙に潤んだ瞳に揺れて映っていました。
あれほど、楽しみにしていたその教会を、
今、こうして、動物たちのように繋がって、雄と雌の交尾の姿を揺らしながら、
呆然と、眺めていたのです。
「忘れられなくなってしまったんだ、君の身体を」
言われたくもないそんな言葉を、耳元で聞かせられながら、
けれど、その言葉に、応えるようにして、
彼のもの、締め付けている、
自分ではどうしようもない身体の肉襞、感じていたのでした。
椅子の背もたれに、両手をつき、後ろから腰に両手を当てられ、
彼の腰、思うがままに、私の身体を突き上げ続けていたのです。
さっき、脱がされた下着が、よく磨かれた床にだらしなく落ちていて、
椅子の規則的な動きに沿って、
その木製の床と猫足の椅子の立てる音、仕方なく聞くしかありませんでした。
地中海での日々も、残り二日になったマルセイユ。
午前中は、エクサンプロヴァンスの観光、ミラボー通りや市庁舎の見学、
市場や、Nさんの奥さまと入った生地屋さんで、
帰国した後も楽しみな布をお土産にするなど、
本当に、思い出深い半日でした。
お昼は、市場近くのお店に入って、
氷の上に乗せられた牡蠣や海老、そして、名物のブイヤベースなど、
この街らしい海産物のお料理の時間を楽しむことができましたよ。
だんな様が、長くフランスでお仕事されているときに、
良く来ていたと言われていた南仏のマルセイユ。
一緒にお食事をした素敵なこのお店も、
実は、昔、よく来ていたところだって、そう言ってました。
二本目のワインも、あっという間に空になりましたが、
主人たら、まだ、まだ、飲み足りなさそう。
そんな様子を見ただんな様、
「家内も、飲み足りなさそうだし、もう少し、お相手してもらうことにして、
じゃぁ、順子さんを貸してもらい、ちょっと、街ブラしてくるかな」
って、私を促したんです。
「えぇ、すいません、街ブラ、お願いしますね。お魚が美味しくて、
奥様、スパークリングワインでも、頼みましょうか」
だって。
えっ、駄目よ、そんなこと、だんな様と街ブラだなんて。
「もし、出港に間に合わなかったら、
なに、明日のバルセロナに間に合うように、列車で向かうから、
心配しないで、こっちのことは慣れてるし」
そう言うと、だんな様、慌てている私の手をとると、
ゆっくりと、立ち上がったのでした。
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