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「幸せの行方」 その2 都の夜

2009.06.07 (Sun)


● 叔父からの提案

爽やかな気配の秋日の朝。
病院の駐車場に落ち葉を舞い上げながら雅彦の車が滑り込んできた。

玄関ホールで事務長に声を掛けられ、四枚のチケットを渡された。
「来月京都であるジャズのディナー・ショウーに慶彦たちと行ってこい。
なあに、ちびちゃんたちは おばあちゃんと喜んでお留守番さ。」

院長の弟である叔父は、
若いときアメリカで音楽家として活動をしていた。
帰国したあと、兄の病院の事務長として勤務し、
高齢者施設開設に奔走しこれを軌道に乗せるなど、
切れ者振りを発揮している。
愛すべき叔父ではあるのだが一人者のためか、
休みの日など朝からワインを空けることも多く心配もしているのだが。

雅彦たちと泊りがけの旅行。
見上げた澄み切った秋の空には、季節らしい雲が流れている。

それまでも、かいがいしく雅彦の世話をしてくれていた順子だったが、
あの日以来、それまで以上にまめに尽くしてくれるようになった。
やや、倦怠の時期に差し掛かっていた夫婦に、
あの夜は、大いなる変化を与えたのだ。

三日と空けぬ雅彦からの誘いに、順子は嬉しい悲鳴を上げていた。
確かに新婚のころは、そのくらいの間隔は珍しいことではなかったが、
ここ半年は抱かれることが随分と減っていたからだ。
リビングや風呂ではもちろん、
帰宅直後の玄関先や、
ドライブ途中のシートの上での強引とも思える行為に、
順子の身体は本人が当惑するように深く感じ始め、
気を失うことさえ度々となっていた。

取り返しの付かないことをしたことは、紛れもない事実ではあったが、
少なくとも表面上では、前と変わらないように、
いや、前よりもはるかに強く深く愛され続けていることに、
困惑より、素直な喜びを感じていた。

●京都での日程

一日目のホテルでのデイナーショウは6時から始まり、
フルコースの食事を楽しんだ後、カルテットの演奏が予定されている。
二日目の午後は、馴染みにしている裕子さんのお店に、
静子と行きたいと言ったところ、買い物のお供はちょっと苦手らしく、
雅彦たち二人は久しぶりに多田やその友人たちと、都の夜を楽しむ算段となった。

旦那さんが経営するブテイックの一軒を任されている裕子さんは、
順子とほぼ同じ歳。
モデルさんのような素敵な容姿と、
親切にそしてセンス良く洋服の相談に乗ってくれることが心地よくて、
近くに行くときは必ずまとめ買いをしている。
最近は写真のモデルにもなっているらしく、
「順子さんも今のうちに綺麗な写真撮ってみない、上手な先生紹介するわ。
順子さんのヌードだったら、先生も喜んで撮ってくれるわよ。」
なんて、誘われている。
ああ そういえば、一度 夜の京都の街で見かけたことがあった。
一緒の男性は、旦那さんじゃなかったようだったけど。

夏の終わりにも訪れて、趣味の良い秋物を随分とお世話してもらった。
今回も、思い切ってコートの相談に乗ってもらうつもりだ。

● 都の夜

慶彦夫婦との小旅行の予定だったが、
寸前になって下の娘が熱を出したとのことで、静子は来られなくなった。
キャンセルが出来ない訳でもなかった。
けれど、三人での夜となれば また 順子を慶彦に。
と そう考えただけで、
赤く燃え上がるものを感じ、手に平にうっすらと汗をかいた雅彦だったが、
先に叔父の方に静子から断りの連絡がいったために、
代わりに、京都に住む親戚の子が来ることになった。

母親側の歳の離れた従兄弟になる桂一は、
去年京都の大学に進学して、医学部の学生として勉強中である。
たまには雅彦夫婦たちに小遣いでも貰えばいいさ。と
叔父が言ったらしい。

都の西側の山が、水墨画のように夕闇の中に溶け込もうとするとき、
期待していた以上の味を楽しませてくれたフルコースの最後の皿が引かれた。
暫くすると小さなステージではカルテットの演奏が始まり、
テーブルごとに上品な歓声が上がるなど、申し分ない夜の時間が過ぎたが、
ワインやマテイーニですっかり出来上がった桂一は早々と退散し、
テーブルには三人が残っていた。

「俺たちの部屋を使えばいい。」
雅彦はそう言うと、自分たちの部屋の鍵を慶彦の前に差し出した。
驚いたように見つめ返す順子に顔を向けることなく、
「来年の春までには、おふくろにいい知らせを伝えたいからな。」
と背中を向けると席を立った。

嫌なら なんとでもできたはずだった。
拒んで雅彦と二人の部屋に帰ることもできた。
それができないなら、自分ひとり先に部屋に帰っておくこともできた。
けれど、今夜雅彦と二人での時間を過ごすはずだった部屋の鍵は、
テーブルの上で慶彦の手のひらに包まれてしまっていた。

旅行の話を聞かされたとき、
前回のような、あんな夜はもう訪れはしないだろうと思った。
けれど、もしかしたら、今夜のような夜が又、訪れるかもしれないとも思った。

薄く見えていた西側の山は、すっかり都の闇の中に抱き込まれていた。

なつかしい舌

雅彦との夜を過ごすはずだった部屋に、無言で入った二人だったが、
後ろ手にドアが閉められ、数歩も歩かないうちに案の定抱き寄せられた。
「堪らなかったんだ、あれから、姉さんのことを思い出すと。」
言葉と同時に近づいてきた唇を、一度は逃れようとしたものの、
おとがいに手を添えられると、
それに抗うことなく誘われるままに唇を任せてしまった。

一度だけのことだったのに、
知り尽くした扉の鍵を開けるように唇は開かれ、
僅かに馴染んでいた舌が滑り込んできた。
あれ以来、本当の夫である雅彦から抱かれ続けたはずなのに、
不思議なことに 今お互いの滴るような唾液の中で、
自分の舌を探して絡み合おうとしているこの懐かしい舌を、
順子はずっと待ちのぞんでいたような気がした。

唇を離すことを許されないまま、何歩も行かないうちに、
順子の体を隠していたものは、カーペットの床にだらしなく脱がされ、
レース地のカーテン越しに差し込む僅かな月光が、白い裸体を浮かび上がらせている。

裸の肩を優しく押され、順子は従順にベッドの端に腰を下ろしたが、
慶彦が衣服を脱ぎ捨てたと同時に、自分の目の前に迫ったものから思わず目を逸らした。
結婚をして数年、数え切れない夫との夜の時間を経て、
男性である慶彦が何を望んでいるのか、判らない筈はなかった。
夫婦の生活の中で、月のうちで雅彦を迎え入れられない数日間は、
その行為で二人の夜の時間を満たすことが常であったし、
それが妻である自分の、当然の務めのひとつだとも思っていた。
けれどそれは、相手があくまでも夫であるからこそ当然のことではあった。

「姉さん。」そう促されると、
その先に光を帯びた透明の玉を称えた慶彦のものに、
それほどの抵抗を感じることなく、濡れた唇を寄せていった。
熱い肉塊の先は、順子の唇を何度も往来しその感触を充分に味わうと、
少しずつ唇を分け入り、舌の動きと暖かさを求め容赦なく更に突き進んだ。
順子の頭の中にはうっすらと霧がかかり始めていた。
そして、唇の中に彼のものを滑らかに迎えるための唾液が、
大量に溢れかえると同時に、
もうひとつの唇も、
実は夫のものより待ち望んだものを迎え入れるための準備を、
見事に完了したことを知覚していた。

●本当に大切な人

慶彦から放たれた大切な液で、自分の体の奥が暖かく満たされていることがわかった。
喉が掠れ、それは、幾度となく恥ずかしい声を上げたことも自覚させられた。
それは、自分が上り詰めることを、初めて慶彦に告げた声であり、
そして慶彦にも一緒に上り詰めることを誘った声でもあった。

繋がったままの身体を離そうとした動きに、
もう少しこのままこでいたいこと告げると、
慶彦の体を抱きしめ、繋がっている部分を僅かに引き寄せてみた。
なぜか分からないが、自然にそうしていた。
この人のものが自分のものを探しだす時間を、少しでも延ばしたかったのだろうか。

愛しているのは夫であることに間違いはない筈なのに、
自分の身体の中に、
求めてやまないもうひとつの命を育ませてくれるのが、
もしも、この人であれば、
本当に大切な人は、
今自分の身体の奥を満たしてくれている慶彦なのかもしれない。
繋がったまま、穏やかに唇を寄せてきた彼の髪を優しく撫ぜながら、
順子はそんなことを考えていた。

二度目の動きを求めたのは順子からだったし、
彼が背後からの形を誘ったことにも、抵抗はしなかった。
双の豊かな乳房を丹念に揉まれ、甘い声を上げながら
その胸にこの人の可愛らしい赤ちゃんを抱くことを思ったとき、
急激に、そして激しく燃え上がった順子は、
慶彦のものをできるだけ早く迎えたくて、
誘うように腰を振り始めていた。

● 一抹の不安

ホテルの一階で四人での朝食を終えると、
どうせもう一泊するから、午前中は暫く部屋でゆっくりしようと散会になった。
部屋に戻ると言われるがまま、
順子は差し込んでいた淡い朝日を遮るため厚手のカーテンを閉じた。
この前同様、夫が自分を求めてくることは予想できたことだったし、
昨夜、あれだけ慶彦の抱かれたというのに、
自分自身そうしないではいられなかった。

羽織っていた薄手のカーデガンを椅子に掛けて振り向くと、
もう 裸になった雅彦がベッドの上に横になっていた。
そして 彼の普通ではない心情は、聞くまでもなく見てとれた。

慌てたように身につけたものを脱ぎ去ると、
息を弾ませながら雅彦のものに唇を寄せた。
昨夜と同じことを、いや、それ以上のことをしてあげなければ、
本当に愛している人はこの人の筈だと思っている自分の気持ちが、
納得しないからだ。

自分のものをむしゃぶりつくように銜え髪を揺らし続ける、
日ごろ見ることのない取り乱した妻の様子をみて、
雅彦の気持ちに一抹の不安が生じた。

こうしていながらも、
順子のこころは今何処にあるのだろう。
これから何処に行こうとしているのだろう。
そして、二人の幸せの行方は何処にあるのだろうか。
しかし、急激に高まってきた快楽の中で、その答えは見つけられないままであった。

● 思いもよらぬ言葉

何か たいへんなできごとがあった気がして、
もうろうとした中に薄い意識が戻ってきた。
これまで以上に、高ぶった夫から責め続けられた順子は、
その恐ろしいような高まりの寸前に、何かを叫んだような気がしたのだった。
自分が何を言ったのかは、わからなかった。
何を叫んだのはわからなかった。
ただ、言ってはいけない事を、口に出してしまったような気がした。

二人の繋がったところから、
夫のものが僅かに滴り始めていることはわかった。
自分が激しく上り詰めると同時に、
夫もその欲望を自分の奥に放ったことに間違いはなかった。

二人のいつもの約束である、
行為の終わりの長いくちづけが続き、
順子のこころと身体がやさしく満たされようとしたとき、
耳を這っていた雅彦の口から、思いもよらぬ言葉が浴びせられた。

「そんなに、慶彦はよかったのか。」

● ポーター
 
静子が居ないのだから、君も一緒に来たらどうだ、
と雅彦に誘われた午後からの予定だったが、
多田と会うのはやはり避けたかった。

自分たち夫婦についての重大な秘密を知られていることもそうだが、
順子の体を舐め回すような多田の視線に、
男の人は気がつかないであろう危ういものを感じて、
診察の時は夫が傍らにいるというのに、
どうしようもなく居たたまれなかったのだ。

「いいわ。桂ちゃんがポーターしてくれるから。」
そう言うと彼の腕に手を回して、おどけるようにホテルのロビーを出て行った。

裕子さんの店での桂一は、
借りてきた猫のように大人しく手持ち無沙汰に窓際の椅子に座っていた。
出されていた二杯目のコーヒーも、もうすっかり冷めているようだった。
予想していたように、冬物のコートに良いものが数点用意されていて、
随分と決めかねたが、最後は裕子さんのお薦めのものにした。

他に雅彦へのセーターやマフラーなど、
どれも箱入りだから結構な荷物になりそうだったが、
桂一がいるからと思い切った買い物ができた。
最後にオフホワイトのフィッシャマンズセーターを、桂一に買ってあげると、
随分と喜んでその場で着替えると言い出し、裕子さんを驚かせた。

順子がお店の奥で小物を選んでいるとき、
窓際で桂一と何かしら話していた裕子さんだったが、
急に慌てた顔をした桂一を見て、花のような笑顔でこちらを向き直した。
素敵な髪が淡い逆光の中で、気持ちよく揺れた。

「あなた 女の人のこと、まだ知らないんじゃない。順子さんに頼んであげようか。
そう言ったら、彼、可哀想なくらい慌てていたわ。どう、教えてあげたら。」

お店での支払いを終えると、
本日のポーターのアルバイト代として数枚の紙幣を桂一に渡した。
昨夜雅彦からも随分なお小遣いを貰ったみたいだったが、
スキー旅行の足しにでもしてくれれば良いと思った。

●見事な月

一度荷物を置きにホテルに帰ると、都の街を少しずつとばりが包み始めていた。
口には出さなかったが、
半日に及ぶ荷物持ちと、何分その若さゆえ桂一の空腹は予想できた。
京料理の店もいくらか知らないわけではなかったが、
思い切って桂一に決めさせることにした。
高級な店とか知らないから、何時も自分が行っている店でいいのかな、
との困ったような返答に、
何の躊躇いもなく、お昼の時と同じように彼の腕に手を絡めた。

まだ随分と早い時間だったが、
ドアを開くと、沢山の人の言葉と歓声と食器の音がに二人を迎えた。
いくらかしかない空席のどれにするか決めかねているうちに、
店の奥から桂一を呼ぶ声が聞こえた。

その声に誘われて桂一と二人で店の中を進む間、
順子は自分に向けられる多くの視線を意識した。
こんな典型的な学生の店に、
確かに今の自分の容姿は不釣合いなのは分かっている。
けれど、それが嫌ではなかった。
京都の女子大学を卒業した順子にとって、
数年ぶりに戻ってきたとも思える懐かしい街でもあったからだ。

偶然に会ったサークル先輩であるその医学生たちは、
実によく食べ、よく飲み、そして、よく話した。
奮発して黒アワビを頼んであげると、
物珍しそうにして食べていた。
一人に日本酒での返杯をすると、
自分もお願いしますと、
真面目な顔が続いているのが可笑しくて、
随分と杯を重ねてしまっていた。

なぜ あんなにしていられたのだろう。
京都で学び過ごした四年間。そんな大切な時間への感慨が、
気づかないままに心を満たし、あんなにはしゃいでいたのかもしれない。

桂一と店の外にでると、
もうすぐ満ちるであろうその夜の見事な月を眺めた。
けれどその月には小さな雲が迫っていて、月明かりをやがて遮ることが予想された。

●喫茶店

通りに出て数歩も歩かないうちに順子はよろけ、
桂一の腕に縋り付いてしまった。
ひどく酔っていると自覚できた。
お酒は飲める方でも、飲めない方でもなかったが、
酔ってなにかしら失敗したこともなかった。
ただ、今夜は学生達との語らいのために、
飲み過ぎたことは間違いない。
けれど、失敗さえしなければ、
酔う事自体は悪いことだとは思わなかった。

あっさりとホテルに戻ることもできたが、
きっと主人たち二人は、
午前様になることは疑わなくてもよかったし、
桂一のお陰で楽しかった久し振りの夜の京都を、
もう少し過ごしたかった。
けれど、河原町まで来た時、
そんな余裕が今の自分にないことが分かり始めた。
どうにも、足取りが覚束なくなっていたのだ。
桂一の若者らしい逞しく頼もしい腕を、
自分から引き寄せるように強く掴んでいた。
そのために彼の肘が、
何度も乳房に柔らかく押しつけられることは仕方のないことだと思えた。
どこか座って冷たいものを飲みたいと言うと、
ちょうど目の前に行きつけの喫茶店があると言うので、
とにかく、桂一の腕を頼りにしながら狭い階段を降りていくことにした。

ドアを開けた桂一の背中を見ながら店に入ると同時に、
前衛的な音楽と、何故かしら懐かしい匂いが順子の身体を包んだ。
腰に手を回し誘ってくれた席に座ると、薄暗い周りを見渡した。
店内には背もたれの異様に高い二人掛けの黒い椅子が、
スピーカーの置いてある小さなステージに向かって、
まるで、列車の座席のように整然と並んでいて、
その最後尾の席が二人の指定席になった。
お客は離れたところに二組程度であることもわかったが、
しかし、そこまでの観察が精一杯である。
注文した冷たいものがテーブルの上に置かれたことを確認すると、
買ってあげたセーターが、
柔らかな素材のフィッシャーマンで良かったと思いながら、
取りあえず、桂一の胸に身体を預けることにした。

●忍び込んだ手

いつの間にかカーデガンの後ろから忍び込んだ手が、
下着のホックを上手に外したことがわかった。
そして、前から這いりこんでいた手は、
その外されたものを僅かに押し上げ、
その指先が目的にした部分にまで、
あと僅かで及ぼうとしていた。
けれど、酔いと疲れと睡眠不足のため、
朦朧とした順子の意識ははっきりとはしないままだった。

本望とした場所に到着した彼の指先は、
爪を引っ掻くように使いその中心を動きを始めた。
思いがけず焦りのない動きを感じた時、
裕子と話していた時に見せた、
桂一の慌てたような横顔を思い出した。

何時の間に、あんなお芝居ができるようになったの。
こんなに上手なくせに。

爪の動きに見事に反応した乳首は、
僅かの間に充分に盛り上がり、
固く姿を変えていた。
その変化に満足した指達は、
更に三本の指を動員してそれを摘むように揉み上げ始めていた。

「気分が悪くなったわ、お手洗いに行かせて。」
そう言って自分の胸にまとわりつく桂一の指達を振り払い、
席を立つこともできたかもしれない。
けれど、順子にとっては残念なことに、
そして、桂一にとっては幸運なことに、
こみ上げる兆候は全く感じられなかった。

胸に広がる快感はやがて全身への快感に移り、
潤い始めた自分の身体の変化に居たたまれなくなった順子は、
悪戯が過ぎた彼の手のひらを押さえ顔を上げたが、
待っていたようなタイミングで、
見事に唇を奪われてしまうことになった。

唇の形と温もり、
同時にその乳房の豊かさと柔らかさを、
手のひらで存分に楽しみ続けていた。
画策したわけではなかった。
昨夜叔父からたくさんの小遣いを貰って、
そのお礼も兼ねて叔母の買い物に付き合った。
思いがけなく楽しかったし、先輩達との宴も喜んでくれた。
けれど、酔いが回ったその後から自分でもおかしくなっていたと思った。。

自分の腕に感じ続けていた乳房。
自分にもたれ掛かる、長いまつげ、さらさらとした髪、濡れた唇。
二人を包む煙草の紫煙、酔い、チャーリーミンガス。
嫌われてもよかった。叱られても仕方がなかった。
ただ ここで、自分に委ねられたままの白い身体と、
今の至福の時間を手放すことは、
自分にとってこの上なく辛いことのように思え、
自分の手中にある美しい叔母の身体の上に、改めて手を這わせていた。

● 木立の影

背後から貫かれていた。
二人とは比べようもない、固く長大なもので奥まで貫かれた。
悪いのは自分だった。
誘ったのは自分だったと、
突き動かされながら頬に熱いものが伝っているのを感じていた。

暗い店の中で、
乳首に舌を絡ませながら、長い間吸いたてた桂一は、
柔らかく歯を立て順子に甘い声を上げさせたが、
その勢いでスカートの中に手を忍び込ませようとして、
濡れた瞳を向けられると、流石にそれ以上のことは躊躇してしまった。

永い時間、桂一の両手と唇が順子の身体中をいいように這い回ったが、
大人の女らしく、何とかなだめて店は出たものの、
今度は桂一の手によって点けられた欲望の熱を、
逆に冷ますことが出来ないでいた順子は、
ホテルとは反対の神社に足を向けた。
随分と酔いは覚めてはいたが、
下着を外されていた胸に彼の腕が与える淡い快感が、
身体の甘い疼きを鎮めさせてはくれなかった。

神社の裏手の公園はすっかり照明が落とされ、
街から届く僅かばかりの灯と月明かりが、
至るところで抱擁し合っている恋人達の姿をうっすらと浮かび上がらせていた。
池から離れたできるだけ暗がりの木立の影に桂一を誘うと、
伸び上がって唇を求めた。
気を失うほど興奮し発情していた。
自分から舌を滑り込ませ、探し、絡ませ合った。
唇が合わさる前から、
お互いが尋常ではない息づかいであることが分かっていた。
喉を鳴らし、お互いの舌と唾液を啜りあった。
桂一の手のひらが胸の上で焦れったく動き回るのを感じて、
自分からブラウスのボタンを外すと、
夜目にも白い乳房がこぼれるように露わになった。
桂一の唇は慌てるように乳首を探し当てると、
順子に細い声を上げさたほど強く吸い上げ、
片方のふくらみは痛みを感じるほど乱暴に揉み上げた。
焦りは彼の息づかいから予想できた。
順子は下着を不器用に脱ぎ落とすと、
彼に背中を見せ木立に両手を添えた。
激しい息づかいの中に、今まで自分でも聞いたことのない声を出していた。
暗がりの中で、お互いの顔も見詰め合わぬまま、
動物たちのように繋がるのだ。
順子は今自分が、
盛りのついた雌になってしまっていることを思い知らされた。
浅ましい姿だと思えた。
けれど、今はそうすることが、
今の自分に正直な姿だとも思えた。

●小さな痛み

両手が腰に当てられた。
大きく熱い息を吐くと、観念したように目を閉じてその時を待った。
太股の内側をつたう程ほどにおびただしい密を流していた自分の秘唇が、
彼のものを迎え入れるために、
もうすでに柔らかく開いていることが自覚できた。

裕子さんの言ったことは、やはり間違いだったかも知れない。
ずば抜けた体積を主張し続け、
思いもよらず善戦した彼のものは、
僅かの間に短くも強い頂上に順子を導き、
甘く細い声をあげさせていた。
けれど、ほとんど同時に彼のものを襲った飲み込むような感触と締まりに、
目の前の限界を見ていた。

危うさを感じる彼の動きに気付いた順子は、
後僅かで始まるであろう大切な白い液の噴出を目に浮かべた。
一瞬このまま、この子の愛を受けたいとも思った。
この子の若くて強い愛の液をを大量に身体の奥に受けたら、
自分は間違いなく桂一の子を孕んでしまうであろう予感を感じたのだ。

うなる様な彼の声と同時に、かろうじて体を離した順子は、
今まで自分の中にあり、存分に喜ばせてくれたものに唇を寄せた。
二人のもので濡れ光っているものを含むことに、
何のためらいもなかった。
彼の腰に両手を当てて数回髪を揺らすと、
舌を使うまでもなく、
塊のような濃いものが幾度も喉を叩いた。
驚くような量と強烈な青い匂いにむせようとしながらも、
懸命に唇と舌と指を使った。
自分を抱いたことに後悔をしないで、
すべてを出してもらいたかったからだ。
自分がどうするのか予想できなかったが、
口の中で溢れかえろうとするものを、
躊躇することもなく、何度も、何度も、懸命に飲み下していた。


眠っていたのだろう。
ワイパーの音で、瞼を開いた。
フロントガラスに、雨の粒が当たっている。
遠くに日本海が見えようとする高速道路を、
二人を乗せた自動車は快調に進んでいた。

肘掛に置かれた夫の手に、自分の手を添えた。
「楽しかったかい。」
夫の言葉の真意を測りかねたが、小さく頷いた。

暫くして握り返されていた自分の手のひらに、小さな痛みを感じた。
昨夜木肌に懸命に両手を添えたとき抜かったものが、
今になって神経に届いたのかもしれない。
自分がいけなかったからだと、
瞳の奥を少し熱くして、
そう思った。

貞操な妻であることに誰よりも自信があった。
夫以外の男の人から、指先さえ触れられないようにと努めてきた。
その自分の白い身体に夫以外の男たちが群がり、
本能を満足させるため、それぞれの熱い欲望を注ぎ込んだ。
それは、今身体の奥で吸収され、
自分を確実に染め直していくようにも感じられた。

夫だけのものであったはずの自分のこの身体は、
実は夫以外の男たちのためのものでもあったことを、
存分に思い知らされた数日でもあった。

左手を柔らかく握られたまま、
順子はもう一度、ゆっくりと瞼を閉じた。
ワイパーの音だけが規則正しく聞こえていた。

京都の街は、もう随分と遠くにあった。

16:45  |  「幸せの行方」  |  Trackback(0)  |  Comment(0)
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