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「幸せの行方」 その25 宍道湖

2021.02.15 (Mon)


●宍道湖

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乗り慣れたサンダーバードで京都着いた後、
新幹線に乗り換えて、岡山に向かっていた。
時間のかかる旅路になったが、
海側の車窓から、美しい海岸線の街並みを望むことができ、
それほど、辛くはなかった。

それに、近くで会えば人の目も気になる、案の定、
京都までのグリーン車の中で、顔見知りの人と出会ったのだ。
それに、この旅路の終わる街には、あの人が待っていてくれているのだ、
不謹慎にも躍る心を感じて、辛いと思うはずもなかったのだ。
逢えない時間が、あの人への思いを、育んでいることが実感できていたし、
あの人に愛されるために、
今の時間を過ごしていることが、幸せに思えたのだ。
思いもかけなかった雅彦の言葉。

「彼の子どもを、柏木の子どもを産めばいい」

あの夜、雅彦から幾度となく抱かれた。
何時になく情熱的であったことは、仕方のないことのように思えたし、
彼に言われたことに当惑しながらも、
永い時間彼に愛され、自分は喜びの声を聞かせ続けるしかなかったのだ。

自分が会ったこともない男に抱かれていた最愛の妻を、
夫である自分が、取り戻すかのように、激しく揺らし続け、
妻の名前を何度も呼びながら、
幾度となく、自分の熱い液と想いを、順子の奥に注ぎ込んだ夜だった。


朝早く、北陸の街を出たが、
岡山で乗り換え、松江に街に着いたのは、お昼を随分と過ぎた時間だった。
爽やかな午後の空は、
これから過ごす、柏木のとの時間が思われた。

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彼がいるホテルに、タクシーで行っても良かったのだが、
駅前から、市内を遊覧する可愛らしい観光バスに乗った。
松江には、両親たちとの家族旅行で数回訪れていたが、
結婚してからは初めての訪れとなり、
見るものが、真新しく感じられる。

宍道湖の穏やかな波、松林に向こうに垣間見えるお城。
いずれも、今の順子には感慨の深いものがあった。

柏木に抱かれ、その大切な男の液を身体に迎え、そして、彼との愛を身ごもる。
女として、喜びに震えるような時間を過ごすことを、
そっと、目を閉じて思った。

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街を周遊するバスが、私鉄の経営するホテルの前で停まると、
フロントには、順子自身が待ちきれないでいた、柏木の笑顔があった。
毎年のように訪れる山陰での仕事のため、
いつものように、一月ほど、ここで過ごしているとのことであった。

「お会いできるかしら」

と、順子から連絡をしたのは、暫く前のことである。
何時がいいだろうと言う柏木の言葉を遮って、
自分から、どうしてもと、この数日の日程を願った。

自分の身体の周期にとって、
彼に抱いてもらうには、その時期が、最もふさわしい時だったのだ。

通された部屋は、宍道湖が眺められる良い部屋に思えた。
既に数日を過ごしているといる割には、
撮影のためのたくさんの機材も、手際よく片付けられている。

窓際にたって、水面を見つめるまでもなく、
後ろから、抱きしめられ、
懐かしい良い匂いが、順子の身体を包んだ。

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「嬉しかった、こうして逢えるだなんて」

そう言われて、唇を求められたとき、
順子の瞳には、涙が溢れようとしていることが、感じられた。
あなたに逢うために、ここに、来たの。
そして、あなたとのことを忘れないものにするための、
私の身体の中に、あなたとの愛を育むために。

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すぐにでも、抱かれたかった、
遠い旅路の間、あなたとのことだけ、思いながらきたのだから。

なのに、行きつけだという料理店に連れていかれた。
見事な庭園の中に設えてある離れで、二人だけの早い夕食であった。

珍しいすずきの棒書焼きや松葉ガニなど、目にも見事な料理ではあったが、
柏木とこうして一緒にいることだけで、
胸がいっぱいの順子には、少し、持て余した食事でもあった。

お店の方には申し訳ないことに、随分と食べきれなかったが、
柏木は、あっさりと切り上げて、
宍道湖を眺めに行こうと言う。
順子をどこの連れて行こうか、何日も前から考えていて、
撮影にも、身が入らなかったと、懐かしい笑顔を見せた。

タクシーが着いたのは、川沿いにあると乗船場だった。
少しながら夕暮れが近づいているように思えたが、
船の後ろにある籐の椅子に座り、波に揺れがままに身を任せると、
なにかしら、良い気分になれた。

日本一と言われるこの街の夕陽。
気持ちの良い風が吹き抜ける波静かな宍道湖を、船はゆっくりと進み、
その夕陽に向かっているようにも感じられる。
いつの間にか、柏木に肩を抱かれ、彼の肩に頬を寄せた。
人目がなかったら、口づけをねだったかもしれない。

嫁が島の浮かぶ水面を、小一時間遊覧した後、
三つの橋をくぐり、船は元の船着き場に戻ってくるころには、
すっかりと夕暮れが街並みを包み、それぞれの灯りが街を飾っていた。

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14:45  |  「幸せの行方」  |  Trackback(0)  |  Comment(6)
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