「幸せの行方」 その５ 薫
2009.06.07 (Sun)
●雪吊り
雪吊りの様子がローカル番組で紹介されていた。
順子は料理をしながらリビングにあるテレビを見ている。
本格的な冬がもう目の前にあった。
風邪をひいたのだろうか、数日前から体調が思わしくないように思われていた。
雅彦の実家と長い取引をしている御用聞きのお店から電話があり、
良い肉が入ったことを実家に連絡したら、
雅彦たちのところにも同じものを届けてくれと言われたとのことだったので、
肉と一緒にワインとメロンを、
午前中には届けてもらうように言って受話器を置いた。
せっかくの週末だから、
二人で美味しいものを食べながら、ゆっくりとした時間を過ごしたいと思い、
お昼過ぎには夕食の準備を早々と始め、
雅彦が帰ってくる前には、
バラの花から抽出したオイルを入れた風呂に、
長い時間身体を浸しリラックスした時を過ごした。
抱かれるときに雅彦が、その匂いを喜んでくれればと思った。
思っていた時から５分も違わない時間にチャイムが鳴り、
玄関先まで迎えにいった順子は、ちょっと甘えるとコートを受け取った。
「今夜の順子は、なんだか良い匂いがするんだね。」
風呂から上がった雅彦はそう言うと、
生ハムに添えるメロンをカットしていた順子の背後から、首筋に唇を寄せた。
温まった両手はブラウスのボタンを上手に外すと、
下着を着けていない豊かな二つの胸をゆっくりと楽しみ始めている。
寝室でゆっくりと愛してもらいたかったが、
夫の求めるがままにここで受け入れることも嫌ではなかった。
二人のこの愛の巣には、
当然のことながらいろいろな場所での営みの記憶があった。
首筋に受ける熱い息と、胸元に絡む手の本格的な動きからから、
食事は少し遅くなるだろうと思えた。
スカートに入り込んだ手を自らも助けるようにして下着を落とすと、
身体を少しだけ前のめりにして、向かえる姿勢と気持ちを分かってもらった。
順子の両胸の感触を充分に楽しみながら、
夫の熱いものはあてがわれ、
それは、殆ど迷うことなく根元まで突き入れられてきた。
背筋を反らせた順子は、強い律動に合わせて身体をうねらせ、
早くも訪れが見え始めた頂点を引き寄せようと、
流しに置いた両手のひらに力を入れて、
夫の動きに合わせるようにして激しく腰を揺らしていた。
獣のようなはしたない声をあげながら、訪れた強い快感に身と心を任せると、
そんな妻の様子に耐え切れなかったのか、
雅彦も激しい律動に移り、あえなく熱いものを注ぎいれ始めた。
最後の動きは長く続き、
二人が繋がった秘所からは順子が収め切れなかった大切なものが、
僅かに伝い流れようとしていた。
レンジに乗せられたビーフシチューが小さな音を立て続けていた。
暫くその恥ずかしい姿勢で繋がっていたが、
漂ってきたその微かな肉の匂いを想像したと同時に、
激しくこみあげるものが襲ってきて、順子は慌ててシンクに顔を寄せた。
二人の身体が離れ、
繋がっていたところから塊のような白いものが床に落ち、
更に太股の内側を伝い流れた。
背筋を震わせてこみ上げるものを吐こうとしたが、
透明の液が僅かにシンクに流れ落ちただけだった。
けれど、二人ともそのことが、
新しい時間の始まりであることを感じていた。
順子は、夫のものを滴らせながら、
そうではないであろう男の人との結びつきの中で、
今自分の身体の中に新しい命が育まれていることを確信した。
夫に背中をなぜられ僅かに涙を流しながら、これからのことを思った。
愛してやまない、大切な雅彦のこと。
欲しくて堪らなかった愛しい赤ちゃんのこと。
自分の身体の上を通り過ぎていった慶彦、桂一、柏木 のこと。
病院のこと。両親のこと。
そして、夫以外の男の人を知った自分の身体のこと。
しかし、幸せの行方は、まだ 見えぬままであった。
百日のお祝いは、
院長の自宅で親類縁者を招いて行われた。
長男の息子の誕生を院長はいたく喜び、
この日も朝から上機嫌であった。
九谷焼の皿を背にした上座に、
院長夫婦と雅彦夫婦が座ると、宴が始まった。
あれから、婦人科での検査を済ませ、
妊娠していることを伝えると、両実家ともたいへんな喜びようで、
二人を、特に順子を褒めながら、身体を大事にするように言葉を重ねた。
雅彦の実家からは、永く家政婦として勤め、
雅彦や慶彦の乳母でもあった光子が出向き、ほぼ半年間に渡り、
家事はもとより出産の準備や順子の体調の管理に奔走してくれていた。
順子は両家の愛情に感謝しつつ、
時折つわりに苦しみながらも順調に臨月の時を迎え、
安産の中で健康な男の子を出産した。
依頼していた院長は、「薫」と命名した。
お食い始めの儀式として、
院長が薫を抱きその可愛らしい唇に形ばかりの箸を添えると、
皆の口から感嘆の声が聞かれ、
それまでやや緊張感の漂っていた座が一気に寛いだ雰囲気に包まれた。
院長の膝から戻ってきた薫は、周りの喧騒の中ですやすやと眠っている。
来月には五ヶ月を向かえるが、お乳をよく飲んでくれ、
遅くあげると朝まで起きることがない夜もあり、
本当に親孝行だと夫婦で喜んでいた。
ふいに泣き出した薫に、お乳をあげるために席を立とうとすると、
隣の義母から、たしなめられた。
「ここで、あげるのよ。
この家の大切な跡取りである薫の母親は、
あなただということを、皆にしっかりと知ってもらうために。
恥ずかしいかもしれないけれど、大切なことなの。」
自分は雅彦と結婚したと同時に、
この家の嫁になったことは理解しているつもりだった。
薫の母親となった以上、
これからはこのようなことに気を使うことは仕方の無いことだろうと思えた。
躊躇している時間はなかった。薫がお乳をせがんで泣いているのだ。
順子は洋服の前のボタンを外すと、大きく胸を開き下着の前ホックを外した。
薫の待っていた乳房がこぼれるように現れた。
それでなくても豊かで美乳だった胸は、
自分でも恥ずかしいくらい更にふくよかになっている。
近くの席から、ほおっ という声が聞こえた。
同時に座にいた皆の視線が、薫と自分の乳房に注がれたことがわかった。
恥ずかしかった。思わずハンカチを取ろうとしたが、
横から義母がその手を止めた。
「皆さん、私心配してたの。
順子さんは胸が大きいから、逆にお乳が大丈夫かなって。
でも、ほら皆見て、たくさん出るのよ。
やっぱり母乳が一番だから。ありがたいわ。
本当に薫ちゃん可愛いわね。
雅彦たちの小さい時とそっくりだわね。」
「豊作でよかった。これで、薫も雅彦も心配なしだ。」
酒が進んだ院長や叔父たちが、順子の胸を見ながら頷くように杯を重ねていた。
「お母さん、ありがとうございました。」
薫に乳首を含ませながら小さな声で礼を言った。
母親は今日の日が嬉しくてしょうがないというような笑顔を返した。
幸せに包まれていた。
夫にも、家族にも、そして、薫にも。
自分の幸せの行方は、この場所と時間だったのだと思えた。
おむつを替え終わり、控えの部屋から出たところで慶彦と出会った。
妊娠が分かってから、家族で家にくることも殆どなくなり、
今日は随分と久しぶりだった。
お祝いの言葉を掛けられ、礼を言った。
もっと沢山のことを話したかったけれど、言葉が見つからなかった。
「抱っこしてみる。」
そういうと、薫をあずけた。
慶彦に抱かれ、その胸ですやすやと眠っている薫。
その薫の顔を覗き込むように穏やかに見つめる慶彦。
胸にこみ上げるものがあった。
広間から呼ぶ声が聞こえた。
いつかまた、二人だけで会うことがあるのかしら。
そう言いたかったけれど、それは、言葉にはならなかった。
●光子
光子がいつものように挨拶を済ませると帰宅していった。
出産を終えた後も毎日来てくれ、薫の面倒や家事の手伝いをしてくれている。
「光子さんへのお礼、たくさんお願いね。本当に良くしてくれているの。」
雅彦は言われるまでもなく、そうするつもりでいた。
学校を卒業して直ぐに今の病院に看護士として勤めだした光子だったが、
数年後に父親の分からない子どもを出産した。
不憫に思ったのだろう、
院長の家の手伝いとして働いてもらうようになって、もう随分と久しくなる。
雅彦や慶彦が生まれてからは乳母としての役目も加わり、
雅彦にとっても、特別な女性であった。
評判になるほど優秀であった一人息子は、
国立大学の法学部を卒業して、大阪で友人たちと弁護士事務所を開設していて、
雅彦たちとも歳が近く親しくしている。
当時の学費についてはどうも院長夫婦が工面をしたらしく、
深い感謝の念を今も親子で忘れてはいないようだった。
ただ、この息子の運動会に皆で応援に行ったことで、
実は院長が手をつけたのではないか、という憶測が流れたことがある。
けれど、母親は光子を傍らに置いて可愛がり、真相は分からぬままである。
ソファーに座っている自分の隣では、
薫が順子の胸に抱かれ、穏やかな表情で眠っている。
子どものことでは、妻には随分と辛い思いをさせてしまった。
自分自身も、生まれてくる赤子にどのような感情を抱くのか、
正直分からないままであったが、
いざ生まれてみると、
そのような心配は徒労であったことが分かった。
いささかの感情の揺れやわだかまりを感じることなく、
自分の子としてその誕生を喜び、
慈しんでいる自分を見ることができ、内心安堵していた。
紛れも無く薫は、二人の子どもであった。
雪吊りの様子がローカル番組で紹介されていた。
順子は料理をしながらリビングにあるテレビを見ている。
本格的な冬がもう目の前にあった。
風邪をひいたのだろうか、数日前から体調が思わしくないように思われていた。
雅彦の実家と長い取引をしている御用聞きのお店から電話があり、
良い肉が入ったことを実家に連絡したら、
雅彦たちのところにも同じものを届けてくれと言われたとのことだったので、
肉と一緒にワインとメロンを、
午前中には届けてもらうように言って受話器を置いた。
せっかくの週末だから、
二人で美味しいものを食べながら、ゆっくりとした時間を過ごしたいと思い、
お昼過ぎには夕食の準備を早々と始め、
雅彦が帰ってくる前には、
バラの花から抽出したオイルを入れた風呂に、
長い時間身体を浸しリラックスした時を過ごした。
抱かれるときに雅彦が、その匂いを喜んでくれればと思った。
思っていた時から５分も違わない時間にチャイムが鳴り、
玄関先まで迎えにいった順子は、ちょっと甘えるとコートを受け取った。
「今夜の順子は、なんだか良い匂いがするんだね。」
風呂から上がった雅彦はそう言うと、
生ハムに添えるメロンをカットしていた順子の背後から、首筋に唇を寄せた。
温まった両手はブラウスのボタンを上手に外すと、
下着を着けていない豊かな二つの胸をゆっくりと楽しみ始めている。
寝室でゆっくりと愛してもらいたかったが、
夫の求めるがままにここで受け入れることも嫌ではなかった。
二人のこの愛の巣には、
当然のことながらいろいろな場所での営みの記憶があった。
首筋に受ける熱い息と、胸元に絡む手の本格的な動きからから、
食事は少し遅くなるだろうと思えた。
スカートに入り込んだ手を自らも助けるようにして下着を落とすと、
身体を少しだけ前のめりにして、向かえる姿勢と気持ちを分かってもらった。
順子の両胸の感触を充分に楽しみながら、
夫の熱いものはあてがわれ、
それは、殆ど迷うことなく根元まで突き入れられてきた。
背筋を反らせた順子は、強い律動に合わせて身体をうねらせ、
早くも訪れが見え始めた頂点を引き寄せようと、
流しに置いた両手のひらに力を入れて、
夫の動きに合わせるようにして激しく腰を揺らしていた。
獣のようなはしたない声をあげながら、訪れた強い快感に身と心を任せると、
そんな妻の様子に耐え切れなかったのか、
雅彦も激しい律動に移り、あえなく熱いものを注ぎいれ始めた。
最後の動きは長く続き、
二人が繋がった秘所からは順子が収め切れなかった大切なものが、
僅かに伝い流れようとしていた。
レンジに乗せられたビーフシチューが小さな音を立て続けていた。
暫くその恥ずかしい姿勢で繋がっていたが、
漂ってきたその微かな肉の匂いを想像したと同時に、
激しくこみあげるものが襲ってきて、順子は慌ててシンクに顔を寄せた。
二人の身体が離れ、
繋がっていたところから塊のような白いものが床に落ち、
更に太股の内側を伝い流れた。
背筋を震わせてこみ上げるものを吐こうとしたが、
透明の液が僅かにシンクに流れ落ちただけだった。
けれど、二人ともそのことが、
新しい時間の始まりであることを感じていた。
順子は、夫のものを滴らせながら、
そうではないであろう男の人との結びつきの中で、
今自分の身体の中に新しい命が育まれていることを確信した。
夫に背中をなぜられ僅かに涙を流しながら、これからのことを思った。
愛してやまない、大切な雅彦のこと。
欲しくて堪らなかった愛しい赤ちゃんのこと。
自分の身体の上を通り過ぎていった慶彦、桂一、柏木 のこと。
病院のこと。両親のこと。
そして、夫以外の男の人を知った自分の身体のこと。
しかし、幸せの行方は、まだ 見えぬままであった。
百日のお祝いは、
院長の自宅で親類縁者を招いて行われた。
長男の息子の誕生を院長はいたく喜び、
この日も朝から上機嫌であった。
九谷焼の皿を背にした上座に、
院長夫婦と雅彦夫婦が座ると、宴が始まった。
あれから、婦人科での検査を済ませ、
妊娠していることを伝えると、両実家ともたいへんな喜びようで、
二人を、特に順子を褒めながら、身体を大事にするように言葉を重ねた。
雅彦の実家からは、永く家政婦として勤め、
雅彦や慶彦の乳母でもあった光子が出向き、ほぼ半年間に渡り、
家事はもとより出産の準備や順子の体調の管理に奔走してくれていた。
順子は両家の愛情に感謝しつつ、
時折つわりに苦しみながらも順調に臨月の時を迎え、
安産の中で健康な男の子を出産した。
依頼していた院長は、「薫」と命名した。
お食い始めの儀式として、
院長が薫を抱きその可愛らしい唇に形ばかりの箸を添えると、
皆の口から感嘆の声が聞かれ、
それまでやや緊張感の漂っていた座が一気に寛いだ雰囲気に包まれた。
院長の膝から戻ってきた薫は、周りの喧騒の中ですやすやと眠っている。
来月には五ヶ月を向かえるが、お乳をよく飲んでくれ、
遅くあげると朝まで起きることがない夜もあり、
本当に親孝行だと夫婦で喜んでいた。
ふいに泣き出した薫に、お乳をあげるために席を立とうとすると、
隣の義母から、たしなめられた。
「ここで、あげるのよ。
この家の大切な跡取りである薫の母親は、
あなただということを、皆にしっかりと知ってもらうために。
恥ずかしいかもしれないけれど、大切なことなの。」
自分は雅彦と結婚したと同時に、
この家の嫁になったことは理解しているつもりだった。
薫の母親となった以上、
これからはこのようなことに気を使うことは仕方の無いことだろうと思えた。
躊躇している時間はなかった。薫がお乳をせがんで泣いているのだ。
順子は洋服の前のボタンを外すと、大きく胸を開き下着の前ホックを外した。
薫の待っていた乳房がこぼれるように現れた。
それでなくても豊かで美乳だった胸は、
自分でも恥ずかしいくらい更にふくよかになっている。
近くの席から、ほおっ という声が聞こえた。
同時に座にいた皆の視線が、薫と自分の乳房に注がれたことがわかった。
恥ずかしかった。思わずハンカチを取ろうとしたが、
横から義母がその手を止めた。
「皆さん、私心配してたの。
順子さんは胸が大きいから、逆にお乳が大丈夫かなって。
でも、ほら皆見て、たくさん出るのよ。
やっぱり母乳が一番だから。ありがたいわ。
本当に薫ちゃん可愛いわね。
雅彦たちの小さい時とそっくりだわね。」
「豊作でよかった。これで、薫も雅彦も心配なしだ。」
酒が進んだ院長や叔父たちが、順子の胸を見ながら頷くように杯を重ねていた。
「お母さん、ありがとうございました。」
薫に乳首を含ませながら小さな声で礼を言った。
母親は今日の日が嬉しくてしょうがないというような笑顔を返した。
幸せに包まれていた。
夫にも、家族にも、そして、薫にも。
自分の幸せの行方は、この場所と時間だったのだと思えた。
おむつを替え終わり、控えの部屋から出たところで慶彦と出会った。
妊娠が分かってから、家族で家にくることも殆どなくなり、
今日は随分と久しぶりだった。
お祝いの言葉を掛けられ、礼を言った。
もっと沢山のことを話したかったけれど、言葉が見つからなかった。
「抱っこしてみる。」
そういうと、薫をあずけた。
慶彦に抱かれ、その胸ですやすやと眠っている薫。
その薫の顔を覗き込むように穏やかに見つめる慶彦。
胸にこみ上げるものがあった。
広間から呼ぶ声が聞こえた。
いつかまた、二人だけで会うことがあるのかしら。
そう言いたかったけれど、それは、言葉にはならなかった。
●光子
光子がいつものように挨拶を済ませると帰宅していった。
出産を終えた後も毎日来てくれ、薫の面倒や家事の手伝いをしてくれている。
「光子さんへのお礼、たくさんお願いね。本当に良くしてくれているの。」
雅彦は言われるまでもなく、そうするつもりでいた。
学校を卒業して直ぐに今の病院に看護士として勤めだした光子だったが、
数年後に父親の分からない子どもを出産した。
不憫に思ったのだろう、
院長の家の手伝いとして働いてもらうようになって、もう随分と久しくなる。
雅彦や慶彦が生まれてからは乳母としての役目も加わり、
雅彦にとっても、特別な女性であった。
評判になるほど優秀であった一人息子は、
国立大学の法学部を卒業して、大阪で友人たちと弁護士事務所を開設していて、
雅彦たちとも歳が近く親しくしている。
当時の学費についてはどうも院長夫婦が工面をしたらしく、
深い感謝の念を今も親子で忘れてはいないようだった。
ただ、この息子の運動会に皆で応援に行ったことで、
実は院長が手をつけたのではないか、という憶測が流れたことがある。
けれど、母親は光子を傍らに置いて可愛がり、真相は分からぬままである。
ソファーに座っている自分の隣では、
薫が順子の胸に抱かれ、穏やかな表情で眠っている。
子どものことでは、妻には随分と辛い思いをさせてしまった。
自分自身も、生まれてくる赤子にどのような感情を抱くのか、
正直分からないままであったが、
いざ生まれてみると、
そのような心配は徒労であったことが分かった。
いささかの感情の揺れやわだかまりを感じることなく、
自分の子としてその誕生を喜び、
慈しんでいる自分を見ることができ、内心安堵していた。
紛れも無く薫は、二人の子どもであった。
