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大賀さんとの出会い

2021.09.06 (Mon)


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お勤め先には、毎日、何人かのお客様が来られます。
殆どの方が、事前に連絡があっていて、対応で、特に困るようなことはないんです。

来られたら、翁先生やY先生のお部屋にお通しして、
コーヒーなどをお出しするですが、
和菓子で有名な街なので、村上の垣穂を添えていますよ。
これって、派手さはありませんけど、黒胡麻がまぶされていて美味しいです。
お取り寄せもできますから、皆さんも、いかがですか。

「あらっ、またお勤め始めたの」
「えぇ、昔と同じように、よろしく、お願いします」
「Yさん、いいですよね、なんだか、華が咲いたみたいで」

前から知っている方、嬉しそうに挨拶してくださるんですけど、
大概の男の人は、私の胸元や身体を、舐めるようにご覧になるんですよ。

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「ねぇ、パパ、大賀さんって、知ってる」
「税理士の大賀さん?」
「えぇ、京都の」
「あぁ、よく知ってるよ、何度か一緒に仕事したこともあるし」
「今日来られたわよ、Yさんを訪ねて」
「へぇ、珍しいね」
「しっかりした人みたいね」
「あぁ、優秀だよ。事務所も、成功してるみたいだし」
「そうなのね」
「ただ」
「えっ」
「随分前だけど、奥さんと別れたって聞いてるよ」
「まぁ」
「理由は分からないんだ、仲の良い夫婦だと思ってたんだけどね」
「子どもさんは?」
「いなかったよ、確か」


「へぇ、彼の奥さんとは知らなかったなぁ」
「主人のこと、ご存じなんですか」
「えぇ、けっこう、昔から」

初めて、大賀さんが来られた時、Yさんから紹介していただきました。
そう言うと、もう一度、私のこと、見直したのです。
大賀さんは、背の高い、スマートな体系で、
初めてお会いした私には、ちょっと、恥ずかしくて、慌てて目を伏せたんですよ。

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Yさんとのお仕事の都合でしょうか、
それから、大賀さん、月に何度か、来られるようになりました。
わざわざ、京都から来てもらうのは申し訳ないって、
その都度、翁先生も交えて、お食事に行かれ、泊まられることもあったみたいです。

もちろん、お勤め先にとって、大切な方、
私にとっては、ただ、それだけの人だったのです。



京都の叔母さんに家、高校時代に使わせてもらっていた部屋に、
今も、そのまま、泊まらせてもらっています。
そこから、主人に電話しました。

「パパ、八坂さんの近くで、偶然、大賀さんと会って」
「へぇ、あぁ、事務所、そのあたりだったよ」
「それで」
「それで?」
「それが、ご飯、誘われちゃったの」
「えっ」
「主人に聞いてみないとって、その時は、断ったんだけど」
「あいつがねぇ」
「嫌でしょ、パパ」
「そんなことないさ」
「ううん、いいのよ、お断りするから」
「いやっ、いいよ、行っておいで、僕は、かまわないよ」

いつものように、京都の叔母さんのところに行った時、
お買い物の途中、花見小路の四つ角で、突然、声を掛けられたのでした。



「順子さん、ですよね?」
「あらっ、大賀さん、まぁ、驚いたわ」
「いやぁ、驚いたのは、僕の方ですよ。どうして?」
「京都にいる叔母のところに、時々来てるんですよ。今日は、お買い物の帰り」
「へぇ、そうなんですね」

その後、せっかくだからって、すぐ前にあった、タリーズコーヒーに入って、
しばらく、お話ししたんです。

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夫が仕事のことでお世話になっていることのお礼や、
私が大学時代、京都で過ごしていたこと、
大賀さんの事務所がすぐ近くにあって、気分転換のために、
このコーヒーショップに、よく来ることなど、楽しかったですね。
主人が、優秀な人だって言ってたの、そんなお話の間にわかったし、
思っていたよりも、ユーモアのセンスもあって、こころが解れました。

残っていたコーヒーがすっかり冷めて、
窓から見える、花見小路の角にあるお茶屋さんの赤い木造の建物が、
薄っすらと、夕陽に染まりだし、
思いもかけず永い時間、満たされた時を過ごせたことに、
お礼を言いながら席を立ったんです。

「また、来られたとき、食事でも、いかがですか?」
「まぁ、ありがとうございます。でも、主人に言ってからじゃないと」
「あぁ、そうですよね。人妻の順子さんが、黙って、私と逢うわけいかないか」
「いえ、そんなこと、ないんですけどね」

大賀さんからの、お食事のお誘い、黙って受けてしまったら、
何も知らない主人に申し訳ないって、そう思いながらも、
それに応えてしまうような眼差し、向けてしまっていたのかもしれませんね。




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簡単な朝礼が終わると、
いつものように、Yさん、壁に掛けてある日程表のホワイトボードに、
いくつかの日程を、追加されました。
幸いに今日は晴天、淡い朝の斜光の日差しが、事務所に差し込んでいました。

その日程の中に、大賀さんの名前を見つけました。
あらっ、明日、来られるんだわ。
この間の、コーヒーのお礼、言わなくっちゃ。


「大賀さん、明日、来られるみたいよ」
「あぁ、そうなの、また、Yさんとの仕事かなぁ」
「そうだと思うけど」
「でも、なんだか、大賀さんのこと話す時って、順子、嬉しそうだね」
「やだぁ、そんなことないわ」
「あいつ、男前だしね」
「この間、お茶、頂いてるからよ。ほらっ、前にお話ししたでしょ、京都で」
「かまわないよ」
「えっ、何が」

でも、そんな私に夫、
何も応えることなく、目の前に置かれていたワインのグラスに、
ゆっくりと、手を伸ばしたのでした。


「この間は、コーヒー、ご馳走になりました。ありがとうございました」
「いやぁ、こちらこそ、楽しかったですよ。ところで、旦那さんのお許しは?」
「まぁ」

「あれっ、順子さん、大賀さんと仲いいね」
「いえっ、この間、京都で偶然会ったんですよ」
「こっちも、びっくりしましたよ、Yさん。京都で、順子さんに会えるだなんて」
「あぁ、順子さん、時々、京都に行ってるもんね」
「えぇ、叔母のところに行ってるんですけど、
花見小路の角で、大賀さんと、ばったり」
「だったら、今度、高級な京都料理でも、ご馳走してもらうといいよ」
「それが、Yさん、そうしたいんですけど、
順子さん、何分、人妻だから、簡単にはいかないんですよ」
「大丈夫だよ、あいつ、そんなこと、気にしないから。
ねぇ、順子さん、そうだよね」

私、何も言わないで、二人に笑顔返したのでした。

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「来週、叔母さんのところに行かせてもらうんだけど」
「あぁ、よろしく、言っておいて、ご無沙汰ばっかりで、すいませんって」
「ありがとう、そう、言っとくわ」
「それで、それだけじゃないんだろ」
「えっ、えぇ」
「大賀と逢うんだろ」
「この間、こっちにいらっしゃった時に、どうかって、また、誘われちゃったの」
「かまわないよ、別に」
「えぇ、長くならないようにするから」
「せっかくだから、ゆっくりすればいいさ」
「そんなわけには、いかないわ。あなたに悪いもの」
「ただ、何があったのか、後で、ちゃんと話すんだよ」
「わかったわ。隠し事なんかしないから、ごめんなさいね」



14:37  |  大賀さんとのこと  |  Trackback(0)  |  Comment(4)
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